2025年、再び米国大統領の座に返り咲いたドナルド・トランプ氏が、就任早々から強硬なアメリカ第一主義を打ち出しています。軍事や貿易、地球環境問題、移民政策など、前政権時代(2017~2021年)に世界を揺るがせたトランプ氏の特徴的な政治姿勢が再び国際社会をかき乱す構図となっています。とりわけ大きな衝撃を受けているのが、第二次世界大戦後からの国際秩序を支えてきたヨーロッパ諸国です。長年「自由と民主主義」を標榜するアメリカと歩調を合わせてきた欧州ですが、トランプ政権の “傍若無人”ともいえる外交や経済政策により、その戦後体制が崩壊の危機に瀕しているといえるでしょう。
本記事では、2025年に入ってからのトランプ政権の動向と欧州諸国の対応を整理しながら、なぜ今、欧州の戦後体制が揺らいでいるのかを考察します。戦後体制とは何を意味し、その崩壊は何をもたらすのか。その行方は、国際政治と世界経済の行方に多大な影響を及ぼす可能性があります。
2025年のトランプ政権再登場―背景と経緯
トランプ氏の復権と「アメリカ第一主義」の再燃
2024年の大統領選で再び当選を果たしたトランプ氏は、就任式において再び「アメリカ第一主義」を掲げました。国内の雇用や経済成長に重点を置くため、同盟国であっても遠慮なく批判し、アメリカに不利益と見なす条約や協定には積極的に再交渉を求める姿勢を明確にしています。こうした方針は、前回の政権(2017~2021年)でも見られたものであり、国際協調を重視してきたバイデン政権の路線とは正反対です。
米国社会の分断と保護主義への回帰
トランプ氏が支持を得る背景には、米国社会の根深い分断と経済的不安があります。グローバル化に伴う産業構造の変化や、移民増加への反感、都市と地方の格差などが有権者の不満を蓄積させ、それが「強いリーダーシップ」を求める声としてトランプ氏を後押ししました。保護主義をとることで国内製造業を復活させ、移民制限を強化して治安や雇用を守るという訴えは、一定の層に根強い支持を保っています。このような国内事情が、2025年以降のトランプ政権の過激ともいえる外交・経済政策を裏付けているのです。
トランプ第2期政権と国際社会の“新たな緊張”
前政権では、NATOへの負担増要求やパリ協定離脱、イラン核合意離脱、WHO(世界保健機関)からの一時脱退などを強行し、国際社会との衝突が深刻化しました。2025年の再登板後も、これらの国際的枠組みを巡る合意の再交渉や分担金の大幅カット、さらには新たな組織設立の提案など、“米国の利益を最大化するためには手段を選ばない”姿勢が鮮明になっています。その余波は、欧州諸国にとって深刻な問題となっているのです。
欧州の戦後体制とは何か
米欧協調の歴史的背景
第二次世界大戦後、崩壊状態にあった欧州諸国の復興を支えたのがアメリカでした。マーシャル・プラン(欧州復興計画)をはじめとする経済支援、そしてソ連の脅威に対抗するためのNATO(北大西洋条約機構)の結成によって、アメリカと欧州は“自由主義陣営”として緊密な協力関係を築いてきました。この米欧協調こそが、いわゆる「戦後体制」の中核を成したといえます。
EUの統合と国際規範の形成
一方、欧州内部では戦争の惨禍を繰り返さないため、国家間の結びつきを深める目的で欧州統合プロセスが進められました。欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)から始まり、欧州共同体(EC)、そして欧州連合(EU)へと拡大を続け、今では世界最大級の経済圏を形成しています。EUはまた、人権や民主主義、環境保護などの国際規範を強く打ち出し、世界秩序の形成にも大きな影響力を及ぼす存在へと成長しました。
しかし、この欧州統合とEUの枠組みも、米国との強いパートナーシップによる安全保障の裏付けがあってこそ成立していた面があります。NATOの軍事的な担保があるからこそ、欧州は比較的平和に統合を進め、経済の自由化を図ることができたのです。
「戦後体制の崩壊」が意味するもの
戦後体制とは、「米国と欧州の協調関係を基軸とし、自由民主主義と市場経済を広めることで安定した世界を作り上げる」という大きな枠組みといえます。その根幹が揺らぐということは、世界秩序の根本的な転換を意味します。アメリカがリーダーシップを放棄したり、一部国際機関から離脱することで、欧州のみならず世界各国が政治・経済・安全保障面で不確実性を増し、結果として地域紛争や保護主義の拡大といったリスクが高まるのです。
トランプ政権の“傍若無人”な振る舞いが欧州を揺るがす理由
NATOへの批判と安全保障の動揺
トランプ氏がかねてから不満を示してきたのが、NATO加盟国の防衛費負担の不均衡です。特にドイツやフランスなどの主要国に対し、GDP比2%以上の国防支出を強く要求するだけでなく、2025年に入ってからは「支払いに応じない国々には制裁も辞さない」と発言したと報じられています。これまでNATOは「米国が欧州を防衛する代わりに、欧州と米国が協力してロシアなどの脅威に対抗する」という暗黙の了解の上に成り立ってきました。しかしトランプ政権はその均衡を崩し、欧州各国は軍事面での自立を迫られる事態になっています。
貿易戦争の激化と保護主義の復活
米国の保護主義が再び強まる兆しは顕著です。特に自動車や航空機、デジタルサービスなど、欧州が強みを持つ分野に対して関税引き上げや制限措置をちらつかせることで、有利な二国間交渉を進める戦術がとられています。前政権期にもあった“貿易戦争”が、トランプ再登板によって再燃する可能性が高いのです。
EUは一枚岩となって対抗しようとするものの、各国の経済構造や利害関係は必ずしも一致していません。ドイツの自動車産業、フランスの農業保護、イタリアの財政赤字問題など、欧州側も抱える課題は多岐にわたります。米国の分断戦術により、EU内部の結束が揺さぶられる展開も懸念されます。
国際協定・機関を軽視する姿勢
前回のトランプ政権下では、パリ協定離脱やイラン核合意からの離脱が大きな議論を呼びました。2025年の再任後、再び環境問題や軍縮条約、WHOの運営負担などについて、アメリカ側の大幅な変更要求や負担金引き下げが議論されています。
特に気候変動問題においては、EUが中心となり新たな国際的取り組みを主導しようとする一方、トランプ政権は依然として化石燃料産業を保護する方向に傾斜しています。これは欧州とアメリカの間で政策的な亀裂を生み、国際社会全体として気候変動に対峙する上で大きな障壁となるでしょう。
移民・難民問題での衝突
トランプ政権が強硬な移民政策を打ち出すことで、欧州諸国にも影響が波及しています。欧州でも難民受け入れをめぐって国民世論が分断されており、一部のポピュリスト政党はトランプ政権の動きを歓迎する一方で、リベラル陣営は強い批判を展開しているのが現状です。こうした動向はEU内部の不協和音を高め、域内の結束を弱める要因ともなっています。
戦後体制崩壊が招くシナリオ
欧州の安全保障“自立”の加速
もし米国がNATOを実質的に縮小・離脱するような事態になれば、欧州は独自の安全保障体制構築を急がざるを得ません。フランスやドイツなどが中心となり、欧州防衛共同体の再構築やEU軍の設立などが議論される可能性があります。ただし、こうした動きには多大なコストと時間がかかり、欧州内の政治的利害調整も必要となるため、すぐに結論が得られるものではありません。また、ロシアや中国の影響力増大が懸念される中で、欧州がどこまで自立した軍事力を持てるのかは依然として未知数です。
世界貿易体制の混乱と経済リスク
米国とEUの保護主義的な対立は、世界貿易機関(WTO)の機能不全をさらに深刻化させ、グローバルサプライチェーンの分断を招く可能性があります。先端技術やデジタルサービス、環境技術などの分野で“陣営化”が進めば、自由貿易に依拠してきた世界経済は停滞や新たな危機を迎えるかもしれません。欧州内でも輸出主導型の国(ドイツなど)と、国内市場重視の国とで対応が分かれ、EU統合の進捗にも悪影響が及ぶでしょう。
グローバルガバナンスの空洞化
トランプ政権の国際協定や国際機関への不信感が再燃するなか、気候変動や感染症対策、財政金融政策の国際的連携など、人類共通の課題への合意形成がますます難しくなります。欧州は気候変動対策や人権問題などで主導権を握ろうとする一方、米国の支持がない状況でどこまで実効性を担保できるかは不透明です。こうした空洞化が進めば、国際的なルールが形骸化し、“力の強い国”が主導権を握る世界へと回帰する恐れがあります。
欧州内部の分裂とポピュリズムの台頭
欧州の戦後体制は、米欧の協調に加え、欧州内での統合と民主主義の成熟によって成り立ってきました。しかし、トランプ政権の外交政策や保護主義的な動きに刺激され、EU内部でも反EUや移民排斥を掲げるポピュリスト政党が勢いを増しつつあります。これらの勢力は「欧州の問題は欧州で解決すべきだ」と主張する一方、国際協調や多国間主義には懐疑的で、EUの連帯を弱める方向に動くことが多いのが現実です。結果として、EUの政治的結束が損なわれれば、戦後体制の中核である“欧米間の協調と欧州統合”が内側から崩壊する事態を招きかねません。
欧州が模索する新たな外交・安全保障戦略
独仏を軸とした欧州防衛強化
2025年以降、欧州防衛における米国の傘を過度に頼ることがリスクになると認識が高まる中、フランスとドイツが中心となって「欧州戦略的自立」を加速させる動きが加速しています。具体的には、軍事技術の共同開発やEU域内での防衛産業の統合、情報共有の強化などが議題に上がっています。
ただし、EU加盟国は防衛政策や軍事的野心において温度差が大きく、NATO離脱や欧州軍創設といった大胆な構想には慎重な姿勢の国も多いのが実情です。欧州防衛強化が実現するには、財政面や政治的リーダーシップの確立が欠かせないでしょう。
新たなパートナー探し:ロシア・中国との接近?
米国との関係がぎくしゃくするなかで、欧州がロシアや中国との関係改善を模索する可能性も指摘されています。エネルギー供給の面ではロシアが依然として重要な存在ですし、巨大市場と投資先としての中国は欧州にとって無視できない相手です。
しかし、人権問題や地政学的対立の観点から、欧州がロシア・中国に接近するには大きなリスクが伴います。特に東欧諸国はロシアに対して強い警戒心を抱いており、一方で中国との経済関係は、技術流出やインフラ依存などの懸念が絶えません。そうしたジレンマの中で、どの程度まで“アメリカ抜き”の協力関係を築けるかは未知数です。
国際規範のリーダーシップ確立
米国が国際協定や機関への貢献を渋る一方、欧州はその空白を埋める形でグローバルガバナンスのリーダーシップを確立しようと試みています。具体的には、気候変動対策としてのEUグリーン・ディールの推進や、人権・民主主義の保護、デジタル規制の整備などで主導的な役割を果たそうとしています。これがどこまで成功するかは、他の国々(日本やオーストラリア、カナダなど)の支持や連携にも左右されます。
また、国際協調を望むアメリカ国内の声とどのように連携していくかも重要です。トランプ政権下でも、州政府や大企業が独自にパリ協定の目標達成を目指すなど、連邦政府とは別の動きがあったことを思い起こす必要があります。
まとめ
2025年に再登場したトランプ政権は、かつての強硬なアメリカ第一主義をさらに押し進めることで、欧州とアメリカの関係に新たな亀裂を生じさせています。防衛・安全保障面ではNATOの結束が弱まり、経済面では保護主義的な政策による貿易対立が深刻化、そして国際協調の土台だった多国間協定や国際機関への米国のコミットメントが急速に希薄化しています。これはすなわち、第二次世界大戦後から続いてきた米欧協調を中核とする「戦後体制」の崩壊を示唆するものと言えます。
しかし、その一方で、欧州が独自の安全保障戦略を強化したり、国際協調のリーダーシップを執る動きも活発化しています。米欧関係の亀裂は、欧州にとっては厳しい試練であると同時に、新たな秩序を模索する契機ともなるでしょう。欧州が米国以外の選択肢を広げ、ロシアや中国とも一定の接点を持つ可能性は、今後の国際政治のバランスを大きく変えうる要素です。
最後に強調すべきは、トランプ政権の“傍若無人”な振る舞いが、単に米欧関係だけでなく、世界全体の秩序に大きな影響をもたらすという点です。国際協調が揺らげば、気候変動や感染症対策、地域紛争の抑止など、私たち全員に関わるグローバル課題が解決困難になる恐れがあります。欧州の戦後体制崩壊が近いと見る専門家の声は多いですが、それでも世界は引き続き、新たな国際秩序を築くための模索を続ける必要があるのです。


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